B-3







目隠しをされていても、空気を裂く鞭のしなる音で、
自分にこれから与えられる痛みの種類が分かる。
予見があれば、対処ができる。
だから悲鳴は何があっても漏らさない。
加虐者を楽しませてやる道理はない。
それでも生理反応としてどうしても歪む顔に、Mr.Rがそそられているだろうことが良く分かるから苛立たしい。
「痛いですか?」
聞きながら、突然背中の傷を爪でわしづかみにされた。
日々鞭を重ねられた背中は赤く腫れあがっていて、
その指の痛みが、まともに神経を駆け上がった。
「ぐ・・・」
予測外の動きに思わず声が漏れる。
ぎりぎりと爪を食い込ませてくるが、それ以上の声はあげない。
「・・・今、何時だ」
時間の感覚がまったくなくなってしまった。
一日中暗闇に覆われたこの部屋では
今が昼なのか、夜なのか、自分が眠いのか眠くないのかすら分からない。
「そんなに会いたいですか。あの方に」
背中に食い込む手に力が入る。
「まだまだ、解放の時間は先ですよ。
お人形は、そうですね。今の時間は、3名のご予約が入っていたはず。
常連さんなんですよ。
けっこう激しいプレイをされる方達なので、彼も今頃夢中になって励んでいる頃でしょうねえ」
「・・・・・・」
そこで、苛立った声を上げようものならまた散々に鞭打たれることは十分に理解したから何も言わない。
何も返さない克哉をどう思ったのか分からないが、
突然乱暴に椅子ごと床に突き飛ばされて、身体を椅子に縛り付けた縄だけを外された状態で
そのままに蹂躙された。





「さあ、お好きにしなさい」
永遠とも思われる時間の果てに与えられる、解放の時間。
酷く鞭打たれた身体で、よろよろと、御堂の傍へと歩いて崩れ落ちた。
御堂は今日も、全裸で、誰のものともわからない精液を身体にはしたなくつけたまま、無表情で床に落ちていた。
「御堂・・・」
背中の焼け付く痛みを眉根一つで耐えながら、
御堂の頬を撫でた。
「佐伯?」
人形が反応を見せる。
けれど、そうじゃない。
「・・・目を覚ましてくれ」
御堂の前に座り込んで、頬を、髪を、撫でる。
「佐伯・・・また、来てくれたのか・・・」
御堂の浮かべる笑顔が優しくて、それが悲しい。
「違うんだ、御堂。
それは俺じゃない。
俺はあんたの恋人じゃない。
俺はあんたを陵辱した、加害者だ」
語りかけているはずなのに、まるで独り言のようだと思った。
「どうした?佐伯。
今日はおかしいぞ」
御堂が首を傾げる。
「おかしい・・・か?」
苦笑いを浮かべた。
「何か、嫌なことでも、あったか?」
心配そうな目をして、克哉の顔から何か探ろうとしている。
「大丈夫だ。心配するな」
克哉は御堂の唇を指で撫ぜた。
「変だぞ。佐伯。いつもなら、もっと乱暴に抱くだけ抱いて置いていくくせに。
本当に、どうしたんだ?」
まるで、正常な御堂のような反応を返すから引きずられそうになる。
「御堂。
いつもあんたを抱いてるのは俺じゃない。
俺じゃないんだ」
通じないと分かっていて、それでも語りかける。
「いつものように・・・抱いてくれないか・・・」
繰り返される促し言葉が、耳に響いた。
「・・・それは、俺じゃない」
散々叫ばされて掠れた声が震える。
「・・・佐伯」
それでも無邪気な声で、せがむように名前を呼ばれた。






→我慢できずに誘われるがまま抱いた。C-1

→いつまでも目覚めようとしない御堂に苛立ちを覚えた。D-1

→それでも何も出来なかった。E-1











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