5







押し殺すような息遣いが聞こえる。
欲を吐き出して、御堂の身体からゆっくりと離れる。
御堂の後孔から、欲望の余韻がとろりと溢れた。
「御堂さん・・・」
たった今まで交わっていた、いとおしい人の名を呼ぶ。
またキスをしようと顔を寄せるが、
たった今まで嬌声を上げていた御堂の表情が、
頬にその余韻をまとわせながらも、また空ろに還っていくのを見て、顔を離した。
「御堂さん?」
名を呼んでも、呼び返さない御堂に、ちりちりと焦りが浮かぶ。
「おい、御堂?」
陵辱の果てに心を閉ざしたときと同じように、何も反応を返さない御堂にぞっとする。
「御堂。御堂・・・」
御堂の上に馬乗りになって肩を揺さぶるが、反応はない。
濁った瞳のまま、されるままに揺られている。
「貴方の番は、終わりですよ」
Mr.Rの声が聞こえた。
「・・・どういうことだ?」
後ろを振り返る。
思いのほか近くにMr.Rがいた。
「言った通りです。
貴方の順番は終わり」
そう言ってMr.Rが手のひらをかざすと、また天地がひっくり返った。





気付けば、さっきと同じように扉の前に居た。
脱いだはずのジャケットも、はずしたはずのネクタイも何もかもが元通りに
自分の身体を覆っている。
「な・・・に・・・?」
また扉の小窓を上げて、中を見た。
御堂は先ほど自分が抱いたときのまま、ベッドに横たわっている。
どこからか、また見知らぬ男が一人現れた。
御堂はそれに気付くと、半身を起こして、嬉しそうな表情を浮かべ手を伸ばした。
男は、御堂に何かを言う。
御堂はそれに対して小さく笑むと、
男に向かい、唇を動かした。
・・・さ、え、き、と。



「・・・どういうことだ」
御堂のほうを見据えたまま、後ろに居るに決まっている男へと問いかけた。
後ろから、Mr.Rの手が克哉のうなじをなで上げる。
「お聞きになりたいですか?」
「御託はいいから説明しろ」
「あの方はね、本当は貴方のことがお好きだったのですよ。
なのに貴方が彼を閉じ込めて、散々にいたぶるから
貴方の心が見えなくて、自分の心をも認めることが出来なかった。
相当苦しんでいらっしゃいました。
だから、私がここへ連れてきた。
貴方のことを忘れたいという彼の望みのままに、
享楽を与えて差し上げたのです。
ほら、淫乱な身体でしょう?
本当はああやって男を咥え込むのが大好きなんです。
けれど、どれほどまでに快楽に身をやつそうとも貴方のことを忘れられないようでしたから、
貴方も彼のことを思っているのだと教えて差し上げたのですよ。

そうしたらね、
今度はああやって、彼を抱くすべての人間のことを
佐伯克哉さん、そう貴方だと思い込むようになった」
「な・・・」
視線の向こうでは、御堂が見知らぬ男と交わりあっている。
その表情には、歓びはあっても、嫌悪は欠片もなかった。
「お幸せそうですよ。
貴方に愛されているという夢の中で、
好きなだけ快楽を貪ることができるのですから。
どんな痛みも、陵辱も、愛ゆえに行われているのであればすべて享楽。
貴方から与えられたものだと思えば、すべてが欲望の糧となる」
「・・・御堂・・・」
扉の向こうでは、先ほど自分が抱いた時と同じ表情を浮かべて
歓喜に震える御堂が、見知らぬ男の口づけを受けていた。
胸が焼ける。
吐き気が込み上げてくる。
御堂が、仰のいて、こちらを向いた。
しかしその目はどろりと濁り、こちらを見ることはない。
御堂の唇に、うっすらと笑みが浮かぶのを見て、嫉妬に狂うかと思った。

「ほら、とても幸せそうだ。
貴方も抱いておあげなさい。
彼は人気ですからかなりの順番待ちですが、
我が王の頼みとあれば、融通は致しますよ。
頼み方は、弁えていただきたいものですが」

振り返ると、殺しそうな瞳で、Mr.Rを睨みつける。

「どうです?賭けをしませんか。
貴方が、この館に留まり私の言うことをすべて聞くと誓うなら、
一日に一時間だけ、あの方と過ごす時間を与えましょう。
その時間の中で彼を目覚めさせることが出来たなら貴方の勝ち。
彼も、貴方も解放して差し上げます。
それが出来ない間はずっと、貴方はここに囚われる」

「それくらいの罰は、当然でしょう?
あの方を壊したのは、貴方自身なのですから」




「断る」 A-1

「・・・分かった」 B-1












back

inserted by FC2 system