B-1







「・・・分かった」
押し殺した声で、克哉がそう答える。
そんなことができるか、と罵倒したい気持ちを抑えたのは
「罰」という言葉が頭にこびりついたからだ。
扉についていた手を、ゆっくりと下ろす。
Mr.Rは嬉しそうに微笑むと、
「では、こちらへ」
そう言って、
克哉を、曲がりくねった回廊の先へと案内した。
扉の向こうでは、未だ御堂と男が絡み合っていた。

一思いに連れ去ることなど簡単だろうに、
己の意思で来ているのだと確かめさせるように、わざわざ足で歩かせる。
永遠に続くとも思われる回廊は薄暗く、
下へ下へと続くようにも、上へ上へと続くようにも思えた。
「どこまで連れていく」
問いかけても、まるでMr.Rなど存在しないかのように、
何の答えも返っては来ない。
大げさにため息をついて、また歩みを進める。
(さえき・・・)
御堂が呼んだ名前が、頭の中で鳴り続ける。
もう、一年も御堂の声をまともに聞いていなかった。
その前の数ヶ月も、自分が聞いたのは呪詛の声ばかりだ。
あれだけ執着して、それでも手に入らなかった人が、
ここへ来てはじめて、自分への思いを目の前で晒してくれたのに。
自分だけが手に入れるはずだった
あんなに甘い呼びかけを、他の男達にもしているのかと
思ったら、気が狂いそうになる。
たった今もなお、誰かの腕の中で自分の名を呼び、欲望のままに腰をふっているのかと思うと、
どす黒い感情でどうにかなりそうだ。
そのすべてを、厳しい眼差しの中に押し込める。

「罰」
それがすべて自分の引き起こしたことが原因だと。
分かっているから、耐え抜くしかない。
すべてに。





「こちらです」
永遠とも思える時間の果てに、Mr.Rが振り返る。
そこには、御堂が居た部屋よりも大きく重厚感のある二枚扉があった。
ぎぎぎぎ、きしむ音だけがやけに耳障りだ。
通されたそこは、深紅のカーペットが広がる広い部屋だった。
窓ない部屋は薄暗く、床に置かれた蝋燭の炎だけが、
ぼんやりと部屋の様子を浮かび上がらせている。
壁際には、鞭や革ベルトなどが、きちんとそろえられて置いてある。
部屋の真ん中には、粗末な木の椅子が一つと、それとは逆に嫌に豪勢なベッドが一つ。
「お前の趣味か」
軽蔑したような表情でそう言うが、Mr.Rは平然とした顔で
「貴方の趣味、でもあるでしょう」
と言ってのけた。
部屋の中央で立ち止まると、後ろで扉が音を立てて閉まるのが聞こえた。
そうしてあとに残るは、炎が揺らめくかすかな音のみ。
「さあ、どうにでもするがいい」
険しい表情のまま、仰のいて挑発すると、
「ええ。もちろん」
そう言ってMr.Rが笑った。













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