A-1







分岐 A−1 『円環』



「断る」
克哉は、そうきっぱりと言い捨てた。
「御堂を離せ。連れて帰る。こんな所には置いておけない」
そう言って、Mr.Rの胸倉を掴んだ。
「拒否するというなら、お前も殺す。
火をつけてこの館ごと消し去ってやる」
その目に浮かぶ狂気に気付き、Mr.Rは薄く笑った。
「この私を、殺す?」
「ああそうだ。御堂に手を出した奴全員くびり殺してやる。
あいつは俺のものだ。俺だけのものだ。
他の誰にも触れさせない」
「ふふっ・・・。
私も、何度も何度も御堂さんと寝ましたよ。
いつも、私が現れるとね。
すぐにキスを強請るんです。
入れてあげると、すぐに自分から腰を動かして。
鞭で打たれるのもお好きみたいですね。
触らなくても、硬くして鞭打たれる自分に興奮している。
何度も何度も出してザーメンに塗れた姿もまた美しい」
「黙れ」
襟首を揺さぶるが、Mr.Rは言葉を止めない。
「彼はね、私のことだけは私と気付いているんですよ。
分かっていて抱かれているんです。
私が快楽を与えてくれると・・・わか・・・」
言いかけた時に、克哉が、Mr.Rの首を絞めた。
ぎりぎりと、力に手を込める。
息も出来ない中、Mr.Rが、音を立てずに笑っていた。
唇をぱくぱくと動かして、御堂との閨での話を続けている。
「黙れ。黙れ。黙れ・・・」
言って、ぐいぐいと締め付ける。
壮絶な笑みがMr.Rの口元に浮かび、
そうして、糸が切れるように全身から力が抜けた。





「御堂さん・・・」
御堂の上に覆いかぶさっていた男をナイフで一突きにすると、
うめき声も上げずに崩れ落ちた男をベッドから下に落とし、
御堂へと声をかけた。
刹那、また目の色が曇る。
「御堂さん・・・。帰るんだ・・・」
御堂の胸元に散った鮮血を、シーツで丁寧に拭く。
唇の端にこぼれる唾液も、
額に浮いた汗も、
何もかもを丁寧に拭っていく。
「帰るんだ・・・」
御堂は何も反応を返さない。
ベッドの脇の棚にあったバスローブを着せると、御堂を背負い、克哉は歩き出した。








御堂の家にまた戻ってきた。
顔見知りになっていた管理人に鍵を家に忘れたといえば、案外たやすく開けてくれた。
一人になってから、御堂をそっと運び込む。
ソファにおろすと、御堂はまた以前のように何一つ身体を動かさない。
髪をやさしくすいてやる。
「御堂さん・・・。これからは、ずっと一緒ですよ?」
囁く声にも、反応を示さない。
反応を示さない御堂には慣れている。
ずっと一年間、こうしてきたのだから
以前となんら、変わりはない。
「貴方が俺を思ってくれていたなんて、気付かなかった・・・」
バスローブを脱がしていく。
白い肌があらわになる。
そこここに散った赤いキスマークや痣に嫌悪して、
すべての痕に上書きするように、キスを落とした。
皮膚が攣るほど強く、強く噛むと、血が滲む。
「ん・・・」
御堂の声がする。
嬉しくて、また別のあとを噛むと、
「さえき・・・」
名を呼んだ。
「御堂・・・さん・・・」
「・・・だいて、くれ・・・」
うわごとのように繰り返される言葉に、克哉は笑った。





俺以外の何者をも見なければ、
俺以外の人間に、「佐伯」と呼びかけることもない。
目など覚まさなくとも
ここに二人きりで居れば
永遠の監獄の中で、
彼はずっと、俺だけのものだ。




ここに繋ぎとめて、
誰の目にも触れさせないで、
永遠に犯し続ける限り、

何度でも名を呼んでくれるだろう。



さえき、と。






明日新しい首輪を買いに行こう。












Are you happy?











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