E-3







鞭に、誇りも名誉も自分が自分であるための何もかもを
すべてを叩きのめされて。
それでも、
『御堂』
呼んだ名と、
『解放する』
その一念だけはけして捨てることはしなかった。
むしろ、ぼろぼろになっていくほどに、その一念だけが研ぎ澄まされていくようでもあった。
どんな屈辱も、耐えに耐えれば時間が過ぎる。
「ご苦労様」
まるで仕事終わりのような声をかけられて、Mr.Rの手で拘束が解かれた。
結局一日拘束されたままだった体は、解放されてもしびれてうまく動かすことが出来ない。
赤く鬱血した体が悲鳴をあげる。
今にも意識を失いそうになりながら、それでも御堂の元へと一歩一歩歩みを進める。
「御堂・・・。元に戻ってくれ・・・」
ぼろぼろの身体を引きずって、御堂へと手を伸ばす。
声はしわがれて、掠れてしまう。
「帰ろう・・・。一緒に・・・」
ベッドに寝ることもせず、床に転がっていた御堂は
惚けた笑みを浮かべるばかりだ。
「ずっと、一緒に居るじゃないか」
御堂はまた、自分ではない自分に話しかけている。
頭が貧血にぐらりと揺れた。
体がどさりと床に倒れる。
激痛に顔が歪む。
「帰ろう・・・」
震える手を、力いっぱいに伸ばした。
「今度こそ・・・やり直そう・・・」
掠れた声で必死に告げる。
「一から・・・はじめるんだ・・・」
御堂は空ろな目でどこかを見たままだ。
首をかしげるようなそぶりを見せた。
「今度こそ、間違えないから・・・」
目の前が暗くなる。
意識が遠のくけれど、必死に目を凝らし御堂を見つめる。
ここで意識を飛ばしてしまったら、また同じことの繰り返しだ。
必死に揺れる頭を起こし、御堂へとずるずると這った。
「み、どう・・・」
体中がぎしぎしと悲鳴をあげる。
御堂は何も答えない。
こちらを見ることすらしない。
「みどう・・・」
御堂の足に触れた。
全力を振り絞って、御堂の身体へと圧し掛かる。
「御堂・・・」
圧し掛かると、御堂が首を傾げた。
「佐伯・・・?」
「御堂!」
呼ぶ声に、喜びが胸にあふれるが、

「また、抱いてくれるのか・・・」

空ろな人形の呟きに、絶望を感じて克哉は意識を闇へと落とした。





こつこつと、Mr.Rの足音が大理石の床に響く。
扉を開けてみれば、そこには空を見上げて
あいも変わらず空ろに微笑む御堂と、
御堂に覆いかぶさるぼろぼろの身体の克哉。
(おやおや)
克哉は失神しているらしく、ぴくりともしない。
「こうしていると、幸せなカップルそのものですねえ」
独り言のようにつぶやくと、御堂が顔を向けた。
「御堂さん。
またお客様が来ますから、こちらへいらっしゃい」
そう言うが、御堂は困ったような顔をしている。
(おや?)
「動けない・・・」
本当にぴくりとも動けないと信じているのか、御堂は身体を動かそうとはしない。
「動けないんだ・・・」
そう言うと、空ろなままの御堂の頬から一筋、涙が落ちた。
「何を泣いているんです?
貴方に会いに、また佐伯克哉さんが来てくださいましたよ。
こちらへいらっしゃい」
「佐伯・・・」
名を呼ぶが、動こうとはしない。
のしかかる男を見るわけでもないのに、御堂は動かない。
「しょうがないですねえ」
そう言うとMr.Rは御堂の上に横たわる克哉を抱きかかえて横へと降ろした。
克哉は目を覚まさない。
「あ・・・」
暖かさを失った体がぶるりと震える。
Mr.Rが強引に右手を引いて、御堂の上半身を起こした。
薄く開いた唇に、Mr.Rの唇が重なった。
「ん・・・」
優しく唇をついばむと、御堂が積極的に舌を絡めてくる。
しばらくそうして深く絡めあってから唇を離すと、御堂の目はもうどろりと淫猥に濁っていた。
「さあ。
行きましょう。貴方の恋人を、迎えに」












E-4

back

inserted by FC2 system