E-2







腕を拘束された状態で無理やり御堂の部屋の前へと連れてこられた。
首につけられた鎖がMr.Rの手につながっている。
一度見た風景だから分かってはいた。
毎日繰り広げられている悪夢なのだと自覚しても居た。
が、目の前にそれを目の当たりにすると、
怒りで気が狂いそうになる。
四つん這いになった御堂は、首輪を嵌められていた。
口にはビットギャグを噛ませられている。
見知らぬ男が、右手に乗馬鞭を持っている。
尻に鞭が飛ぶたびに、御堂からくぐもった悲鳴のような声があがる。
「・・・」
憎悪に、噛み締めた口からうめきが漏れる。
「ほら、懐かしいでしょう?
あなたもああやって鞭打っていた」
見ていたかのように、自分と御堂の間にある秘密をMr.Rは暴く。
がちゃがちゃと拘束された腕を振って、はずそうとするが腕を傷つけるばかりだ。
「止めろ!もう、これ以上御堂を甚振るな」
叫ぶが、Mr.Rは平然と扉の向こうで繰り広げられる酷い宴の様子を眺めている。
「鞭の打ち方があまりお上手ではないようですねえ。
あれでは、痛いばかりでムードもへったくれもない。
鞭はあのしなる音も大事ですからねえ。
ねえ、貴方もそう思うでしょう」
冷静にプレイを品評する男に、憎悪の瞳を向けた。
「こんな茶番はもう止めろ。
御堂を、これ以上傷付けるな。」
これ以上あいつを痛めつけるなら、お前を殺す・・・」
ぎりぎりと、拘束された腕をそれでも動かした。
「傷ついてなどいませんよ。
言ったでしょう?そこに愛があるのなら、どんなプレイも欲望の糧となる。
御堂さんは、貴方からの愛あるプレイだと思うから、
頑張って耐えているのです。健気じゃありませんか」
かすかに漏れ聞こえる御堂の悲鳴が耳につく。
部屋の中の男が、鞭に飽きたのか御堂の腰に手を当てた。
「やめろ!やめろやめろやめろやめろやめろ!!!!」
行われることを予想して体中が総毛立ち、克哉は叫び散らして腕を拘束されたまま
その扉へと走った。
首につけられた鎖がびんとはり、息苦しいがそれすら気にせず
扉へと体当たりする。
「御堂!御堂!」
絶叫しながら、何度も扉へと身体をぶつけた。
何度も。
何度も。
何度も。
ぶつけた肩が壊れるかと思うくらいに赤く腫れあがるが、それでも克哉は止めなかった。
克哉の身体が当たるたびに、蝶番がぎしぎしと音を立てる。
どん、どん、と大きな音を立てる扉に、
御堂が、ふと、こちらを見たような気がした。
大きく身を捩り、また力を込めて扉に体当たりをすると、扉が大きな音を立てて開いた。
「御堂!」
叫んだところで、
「いけませんねえ」
Mr.Rの声が後から響いたと思うと、鳩尾に痛みが走り、そのまま世界が暗く、途切れた。





「プレイの最中に邪魔をするなんていけないですね」
いつもより更にきつい拘束に、両の手はぴくりとも動かせない。
まだ腹からの鈍痛は治まらず、自然と身体は九の字に折れていた。
自分のためにあてがわれた部屋の床がひんやりと冷たい。
だが、今もなお御堂を苛んでいるであろう責め苦を思って、身は熱く煮えたぎる。
「・・・御堂を解放しろ」
叶えられることはないと分かっていても、言葉を止めることが出来ない。
「あいつをこれ以上傷つけるな」
「お願いをする言い方じゃあ有りませんね」
言い様鞭がきつく飛んだ。
プレイを盛り上げるための鞭ではなく、仕置きのための一撃は身体の奥へと確実にダメージを与える。
「ぐ・・・」
「罰の最中に、人のプレイの邪魔をするなんて愚の骨頂です」
革鞭がしなりをきかせて飛んでくる。
首筋に当てられた鞭に、身体がしなる。
「まだ、躾が足りなかったようですね。
さすがは我が王、強情さにかけても群を抜いている。
けれど、あれはいけません。
貴方が関与していい範囲を超えている。
私の顔に、泥を塗るのはやめていただきたいものです」
容赦なく振り下ろされる鞭に、身体中が赤く染まるが、克哉は一度も悲鳴をあげはしない。
あまり効果がないと分かってか、Mr.Rは鞭を置くと腹を蹴り上げた。
「うっ・・・」
まだ、先ほどの痛みもひいていないのに追い討ちをかけられ、息が詰まる。
二度、三度、いっそ冷静に、的確に腹を蹴り上げる。
「く・・・」
内臓が歪むかと思うほどの蹴りに、吐き気が込み上げる。
「あ・・・」
溜まらず口から漏れた液体には、赤色が混じっていた。
「許しを請いなさい」
革靴でぎりぎりと頭を踏まれた。
靴底に押されて、床へと顔が押し付けられる。
自分の体温で、床が暖まり、汗で湿っている。
「無粋をした、許しを請いなさい」
押し付けられた顔が歪む。
「はいつくばって、許しを乞うて、私の靴でも舐めれば許してあげましょう」
そう言って、頭から足をのけたと思えば、顔の前へと出された。
「誰が・・・」
朦朧とする意識でそれでも唾を吐く。
「ふふふ。往生際が悪いですね」
そのまま頬に擦り付けられた。
「貴方とこうやっているのは、本当に楽しい。
いつ、貴方が堕ちるか。
それとも堕ちる前に死ぬのか、
そのスリルは堪らない」
嬉しそうな声が頭上で響いた。
最後にまた顔を蹴り上げられて、目の前が白く霞んでいく。
それでも、か細く、短く息を吸い、吐き、意識を失わないようにと耐えた。
「みどう・・・」
もう、何も残されていないから、ただ御堂の名を呼ぶ。
せいぜい、Mr.Rの興を削いでやることしかもう出来ないから。
繰り返し、聞きたがっているであろう悲鳴の変わりに名を呼ぶ。
罪の名の下に痛みが行使されるその度に。












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