『果実の残り香』

 

 

 

「本当に、やる、つもりでやんす、か?」

 目が泳いでいる。怯えというよりは、純粋な戸惑いの色が目に浮かぶのを見ながら、佐伯克哉は薄く笑って、ことの続きを進めようと異形の足を更に押し広げた。

「誠意、見せてくれるんだろう?」

 それでもなお、身じろぎなんとかその腕から逃げようとするが、その羽は後ろからMr.Rが押さえつけているから、逃れることは出来ない。

 それでもなんとか、せっかく成長した体を守ろうとして何か言葉を発しようとするが、唇はぱくぱくと動くだけで、何も言葉が出てこなかった。

「だんなぁ……」

 結局情けない声で同情を誘うが、先ほど自分の主すらも手管にかけたほどの人間が、自分のような下っ端の妖精の声になど同情を寄せてくれるはずもなく。

 克哉の顔が近付いたかと思うと、そのまま左へと向かい尖った耳先を嬲る。

「ああ、あぁっ。そ、そこ、は……」

 このような形に生まれついたものの宿命として、鬼畜妖精は耳が弱かった。克哉の舌が、耳の穴や尖った耳先を這うと、寒気にも似た震えが全身を襲う。けれど、その震えは決して不快から来るものではなく、むしろ体の芯に、熱く火種を灯す。耳朶を甘く噛まれれば、その刺激だけで下半身に血が集まっていく。逃れようと頭をふれば、もう片方の耳を羽を押さえつける男に舐められた。

「んあっ。ぁああああっ……」

 蛇のように、冷たい舌が、耳の中をぐるりと這う。そうして、息を吹きかけられれば、耐えがたい快楽に全身に鳥肌が立った。

「耳は、……反則、でやんす……」

 そう言うと、分かっている、というように克哉が意地の悪い笑みを浮かべて、もう片方の耳にも息を吹きかける。異なる温度の息が両耳に吹きかけられる。

「あぁ。んんんっ」 

 それだけで、鬼畜妖精は過剰に反応した。

 鬼畜妖精の意識が耳に集中する間も、克哉の手は服を少しずつはぎ取って行く。上着はすでにすべてぬがされ、胸板の上の葡萄粒が赤く色づいているのが丸見えになっている。ズボンは半端に前だけを露わにされた状態で放置されている。下着など身につけていないから、すでに大きくそそり立ったモノは露わに脈づく姿を陵辱者二人に晒している。尻の間から覗く尻尾は、二人の舌が鬼畜妖精の耳を這うたびに、ぴくりぴくりと揺れた。

「はぁ、はぁ」

 ようやく克哉の舌が離れた。と思うと、必死に噛みしめた唇の上をべろりと舐めあげ、その後は喉元へと降りた。ちろちろと舌先が鬼畜妖精の体の上を這い、下へ下へと降りてゆく。そうして、赤い実にたどり着いたと思えば、舌先が執拗に胸の飾りを舐めた。その間もMr.Rは、鬼畜妖精の耳を甘くねぶっている。肩を押さえていたMr.Rの手はいつのまにか羽そのものへと移っていた。薄い羽根の上へ降りた掌が、鬼畜妖精を床へと押さえつける。抵抗すれば、すぐにでも破れてしまいそうで、さらに身動きが取れなくなってしまう。

 鬼畜妖精の頬はすでに赤く、血の巡りを隠せはしない。いくつもの悲鳴や喘ぎを取り込んで吸収してきた耳が、今は自分自身の隠せないあえぎ声を聞いている。その事実に羞恥が増す。喘ぎ声を主食として成長する生き物だから、自分の内から溢れて止められない吐息が、また自分の中に新たな熱として還ってくる。まるで自分の放ったものをもう一度飲み込むような倒錯を感じて、鬼畜妖精は必死に唇を噛み、声を漏らさないようにするが、その分鼻から洩れた吐息が一層に甘さを増して、悪循環は止まることがない。身のうちに溢れる興奮をすべて自分でまた取りこんでしまい、このループは止まることがないようにすら思えた。

「もう、十分でやんす……、旦那っ、これ、以上されたらっ」

 乱れる息の下、なんとかそう告げる。

「何を言ってるんだ。これからに、決まっているじゃないか」

 先ほどまで、いくつもの人間を責め立てた王者の瞳が自分をまっすぐに見ている。その瞳を見ていると、逃れられないという絶望感と、同時に期待するようなくすぐったい気持が同時に湧いてくる。

「お前も、人間の喘ぎを糧にする悪魔なら、本当はこういうことが大好き、なんだろう?」

「あっしは、悪魔じゃっ……」

 否定しようとすると、克哉の手が鬼畜妖精のそそり立った実へとたどり着いた。力強く握りしめると、上下に軟く動き出す。

「んんっ。うん、っ」

「本当は、こうされるのが、大好きでしょう? お前は。我が王に犯されるとは、お前のような下賤の身には過ぎたる光栄。存分に克哉様を受け入れて奉仕するが従者の勤め」

 耳へと、Mr.Rが甘い声色で囁きかける。その声だけで、鬼畜妖精は身もだえしそうなほどに快楽を覚えた。

「んあっ……。R様……、R、さまぁ」

 そうする間にも、克哉の手が鬼畜妖精の中心を擦る。その手のほうへとMr.Rの手が伸びると、二つの手が重なり合って中心を擦りはじめた。二つの異なる手が与える刺激に鬼畜妖精は翻弄される。どくどくと血が流れる音が耳に聞こえてくるかのようだ。克哉の手は、腹の上をつぅ、と辿ると一度体を離れた。どこへ、と思う間もなく、克哉の手が尻尾をつかむ。

「んんんんんぅんんっ」

 耳と並んで、もちろん尻尾もまたきつい快楽の中心だ。鬼畜妖精の身体がびくりと跳ねる。が、Rの手に阻まれて逃げることは叶わずにその快楽はそのまま体の中を駆け巡った。克哉の手が、尻尾の先を人差し指でぐりぐりと押す。そこから痺れるような快感が伝い、鬼畜妖精の体を何度も跳ねさせる。

「そ、こはだから、駄目なんでやん、す……」

 そうは言いながらも、赤く熟れきった瞳はすでに克哉を誘う火種にしかならない。

「そうか。駄目、か。覚えておこう」

 克哉はそう言って笑うと、さらにその先を左手の人差し指の腹で何度も押しては、鬼畜妖精の過敏な反応を見て愉しんだ。

「じゃあ、そろそろ。本番といくか」

 そう言うと、克哉の手は尻尾から離れて、後孔へとあてがわれる。

「ひっ」

 一本差し入れられた指を身の内に感じて、鬼畜妖精の顔が紅潮する。指は内壁を確かめるようにぐるりと一周すると、身の内の快楽の泉を探すように何度も入口奥を前後する。

「んぁっ」

 一点を通った時に、いっそ間抜けなほどにあからさまな声が漏れた。克哉がくつくつと笑いながら、その一点を何度も指で押さえる。そのたびに、鬼畜妖精の声からは気の抜けた喘ぎが漏れる。

「ほら。お前にもわかってきただろう? ここに突っ込まれることの、意味が」

 言いながら、二本に増やされた指が内部を侵食していく。その間中ずっとMr.Rの手は前を握りしめてはゆるく上下していて、鬼畜妖精の昂りは収まる間もない。

「こんなの、はじめ、て、でやんす……んっ」

 ハァハァと息を上下させながら、熟れた唇がそう紡ぐ。元々快楽のために生み出された命は、先に待つであろう行為の期待を、もう隠し通せなくなってきている。先に何人も見てきた喘ぎ、昂り、ほとばしる様子が鬼畜妖精の脳裏に浮かぶ。あんなふうに自分もまた、目の前の男に犯されるのだという事実に、体の中の何か柔いものが濡れる。

「我が王。そろそろ、頃合いでは?」

頭の上から、Mr.Rの声が響く。その言葉に克哉が頷いて、指を中から引き抜いた。

「たっぷり、味わえ」

ジッパーをゆっくり降ろす音だけが部屋に響く。鬼畜妖精はその音に、唾を飲み込んだ。スラックスの前をあけると、すでにそこには屹立が形を浮き上がらせた下着が見えた。

瞳が、先に続くことを予感して、戸惑いに揺れる。その瞳を、克哉とMr.Rの二人がじっと見ている。見つけ目返すことを望んだ瞳は、Mr.Rのものだ。鬼畜妖精の瞳が、自分を見つめる主へと向く。助けてほしい、と懇願するような。Mr.Rの顔色を窺うような。すがるような眼差しが、Mr.Rの愉しそうな瞳と交差する。

「さぁ。我が王を受け入れて、乱れなさい」

 主の望みはそれなのだと、はっきりとMr.Rが告げる。敬愛するたった一人の主人にそう促されて、鬼畜妖精は覚悟を決めたように克哉のほうを向いた。

「もう、どうにでも、するがいい、でやんす……」

「いい子だ」

 より高く足をあげられる。鬼畜妖精は、ぎゅっと目をつむり、その時が来るのを待ち構えた。

「いれる、ぞ……」

 言葉にこくりと頷くと、大きな塊が後孔へとあてがわれる。熱い塊が入口に当たるのを感じて、鬼畜妖精は身を硬くした。ゆっくりと、中へと入ってくる感触に体中から汗が滲む。

「うぁああぁっ。んっ」

 はじめて体験する感触に揺れる瞳を見て、Mr.Rが晴れやかに笑う。可愛い子を愛しむような瞳を向けるMr.Rに、鬼畜妖精は目を見張った。

R様ぁ」

「どうです。我が王のたくましいモノをその身に食んだ感想は。きちんと私に言葉で伝えるのです、鬼畜妖精」

 促されるままに、鬼畜妖精は肉が己の内へと入りこむ結合部へと視界を下ろした。未だ途中までしか挿入されていないモノが、雄々しく脈打って己の中に入り込もうとしているのを目にする。

「ぁああぁあぁ。だんなのモノが、あっしの中に、ナカに……入ってるでやんす」

 その言葉を聞いて、克哉は満足したようにその身をすべて鬼畜妖精の中に収めた。

「んあああああぁっ」

 太い屹立が身のうちを埋め尽くす感触に、思わず後ろをきつく締め付ける。そうすると、よりリアルにモノの形までが中に伝わるようで、羞恥に鬼畜妖精は首を振った。

「熱い、かた、い」

 拙い語彙で、それでもなんとか敬愛する主の望むとおりに伝えようと、鬼畜妖精は喘ぎの中とぎれとぎれの声でその感触を口にする。

克哉の腰が、僅かに引かれた。抜かれる感触に目を開くと、克哉が意地の悪い笑みを浮かべている。

「じゃあ、こういうのはどうだ?」

 言われると同時に克哉の肉塊が、鬼畜妖精の前立腺を突いた。内側からの刺激に、より直接的な快感が全身へと巡って行く。克哉の腰が前後に動くたびに、鬼畜妖精の尻尾はぱたぱたと跳ねた。

「ん、はっ。当たってる、気持ちいいところに、当たって……」

「ふぅん。お前は、ここがいいのか……」

 言われて、自分が恥ずかしいことを口にしたという自覚が湧いてくる、その羞恥は何故か快楽とつながっていて、さらに血が巡る体は、甘い痺れに包まれる。

R様……」

 鬼畜妖精の瞳がまたMr.Rへとすがるように向けられる。Mr.Rの唇に柔らかい微笑が浮かんでいるのを見て、鬼畜妖精は自分でも何故だかわからないが安堵した。羽根にあてがわれていたいた手の片方が、鬼畜妖精の髪を撫でる。その感触に身をゆだねようと目を閉じると、人の気配が近づいてきて、そのまま唇へと柔らかいものが当たった。それが、唇だと気付くと同時に舌が口内へと侵入する。それを合わせるように、下の動きも再開され、ゆるゆると鬼畜妖精の前立腺を刺激し続ける。先ほどから全身の性感帯をくまなくもてあそばれた身体は、少しの刺激にも限界だというように先走りを零した。

「んんっ」

 唇は、逆方向から重ねられている。先ほど耳を嬲ったその舌が、歯列をくすぐったり、舌を吸い上げたり、口内をぐるりと舐めあげたりと、鬼畜妖精の中で蠢いている。克哉の腰の動きもどんどんとスピードを上げ、抉るように何度も抜き差しされる。淫猥に水音が響くのが耳に届く。何度も何度も重ねられる刺激に身をよじりながら薄く眼を開くと、眼鏡の下の金色の瞳が笑むのが見えた。

 その慈愛に満ちた眼差しに、鬼畜妖精の心が跳ねる。

 心と同時に打ち込まれた楔に、どぷり、と鬼畜妖精の前が爆ぜた。

 後ろから来る刺激に、全身の毛穴が開くような快感が駆け巡る。耐えきれない身体は仰け反って、ひくりひくりと痙攣した。叫びちらしたいような気持は、Mr.Rの唇の中にすべて溶けて消えていった。唇を伝いでることが出来ない快楽は、かわりに鬼畜妖精の瞳を濡らす。それを受けて克哉もまた己の精を鬼畜妖精に叩きつける。中に注がれる生暖かい感触の過ぎた刺激に眉根がぐっと引き結ばれて、稲妻が落ちたように震える体は何度も精を吐き出した。

「……、ん、ぷはっ」

 ようやく、Mr.Rの唇が離れる。自分の唾液に濡れた唇を見れば、もう一度唾液を呑み込む喉が鳴った。

「さすが我が王。これほどまでの快楽をお与えになるとは。唇を通じて私にまでその刺激が伝わってきました」

 頭上で、Mr.Rが克哉をほめたたえる声がする。克哉は首を振りながら萎えた一物を引き抜くと、何事もなかったかのようにまた身なりを整えている。

「ふん。これくらいは容易いことだ。まぁ、悪くない趣向だったからな。これくらいで勘弁してやる」

「それはそれは。満足されたようで私も安心致しました」

自分を交えずに交わされる頭上での会話を、うわの空で聞いていた。全身を包む倦怠感と、唇に残るキスの名残に蕩けた脳はなかなか動いてくれない。

「ひどい、でやんす……」

 唇をついてでたのは、泣き事。

 それに合わせて、もう一粒涙が眼の端を伝って流れた。

「せっかく集めたパワーが、出てしまったでやんす……。せっかく人並みの大きさの体になれたの、に……」

ぐずぐずと泣き事を言う鬼畜妖精を、Mr.Rと克哉が感動のない瞳で見ている。

「その割には、いっこうに小さくならないようだが?」

 冷めた瞳で冷静に克哉が事実を指摘した。言われた言葉にはっとして鬼畜妖精が飛び起きる。

「あ、あれ? なんででやんすか???」

「ふふふ。それはきっと、佐伯克哉様ほどのお方の精液をその身に飲んだからです。あなたの吐き出したものなどよりもずっと濃い欲望が、そこには詰まっている……。あなたを通じて私にも届くほどの強さ。まさに我が王たるに相応しい」

 Mr.Rが美辞麗句を克哉に向って投げかけている。

 克哉はつまらなそうにそれを聞いていたが、思いついたように鬼畜妖精を振り返った。

「ふぅん。では、俺が何度も抱いてやればお前はいつまでも大人の体でいられるっていう道理になるな」

「ひっ」

「おや。それは素晴らしい提案。克哉様の慰みになるのも配下の勤め」

「か、かんべんするでやんす……」

 先ほどと微塵も変わらないMr.Rの笑顔に追い詰められた鬼畜妖精の悲鳴が赤い赤い部屋へと木霊した。

 

 

 

 

 

FIN

 

 

 

back

 

 

 

inserted by FC2 system