A deep attachment

 

 

 

血の色をした淫蕩な夜の城は、今日も爛れた果実の香りが漂っている。奴隷達を足元に従えた克哉は、つまらなそうに遠くを見つめて、何かを思案しているようだった。

今部屋に居るのは本多と御堂の二人。あとの三人はMr.Rが仕事、と称してどこかに連れて行った。今頃客の相手でもさせているんだろう、と思うがさして感情も湧かない。足元にはいつくばっているうち、本多には今日も口枷をかませてあった。バイブを後孔に埋めたままの体は呻き声を上げているが、口枷で何を言っているのかは分からない。外しても、結局は呻いているだけかもしれない。御堂は、虚ろな目をしてぴくりとも動こうとはしない。Mr.Rにあてがわれた五人の中で最も長くしぶとく堕ちようとしなかった男への調教は凄惨を極め、ようやく堕ちた頃には、自分が触れたり話しかけたりしない限り、人形のようにただ呆けているだけになった。

「暇だな……」

いくつもいくつもの夜が過ぎた。過ぎはしたがこの館に変化などない。はじめのうちは、与えられた奴隷の調教に嬉々として望んだ。一人ひとり堕ちていく様に言いようのない興奮を覚えた。秋紀ははじめから自分の飼い猫になりたいと擦り寄ってくるくらいだから羞恥心さえ取り除いてやればあっという間に堕ちた。片桐も、この館に来る前から自分に執着を見せていたようであったから、堕ちるのはあっという間だった。太一も、案外根は倒錯を好む気質だったのか、きついプレイにこそ高ぶりを覚えるタイプのようだった。嗜虐も過虐もどちらも悦び、この館にすぐになじんでいった。てこずったのは本多と御堂。本多はまああの見てくれどおりだから、丁寧に慎重に快楽を覚えこませるのにひどく時間がかかった。何時までも友人面をする胸のうちには人を抱きたいと倒錯的な思いを潜ませていたくせに、それを認めようとしない本多を何度も何度も快楽に溺れさせてはゆっくりと壊した。胸のうちにあったその欲望を上手に煽ってやれば、いつしか自分への愛情と欲望を履き違え、自分が指し示してやるプレイに悦んで溺れるようにはなったが、今でも時折昔のお前に戻ってくれだの、どうしてこうなってしまったんだ、だの、我に返ったような胸糞悪いことを言うから、口枷で言葉を奪うことも多かった。いつまでも変わらないようなら、喉を裂いて言葉ごと奪ってしまおうか、そんな企みを考えたこともあったが、何故かそれは躊躇われた。

御堂は、堕ちた。堕ちたが半分、死んでしまった。

苛立ちは、いつしか突然胸の中に沸き、湧いた途端に消えることはなくなった。Mr.Rは、飽きたのならばもっと他の奴隷をつれてきましょう、そう言うが、そんなものには興味が持てなかった。数だけ増えても、同じでしかないことくらいもう分かっていた。だからといって、ここを出る気にはなれなかったし、きっと出ることなどできないのだろうとも分かっていた。Mr.Rはいつも薄く笑った。Mr.Rにとっては、きっとどうでもいいのだろう。ここで何が行われようが。誰がどうなろうが。自分がどんな感情を抱こうが、ここで愚行が繰り返される限り、誰かがイき、求め、狂う限りそれでかまわないのだろう。

足元で呆けている御堂を足でこづくと、抵抗もせずにだらしなく仰向けで倒れた。自分に構われたことでその瞳はかすかに光だかなんだかを宿し、こちらを見る。

「……おしおきを……下さい……」

唇の端から、教え込んだ言葉が漏れる。言わせるまでに恐ろしい日数がかかった。ようやく言えるようになれば、あとはこの言葉ばかりになった。

「おしおき……か……」 

冷たい目でさげすむと、御堂の身体が期待に震えた。犯してやれば、どんな体勢でもきっと悦ぶのだろう、と思うがあまりその気にはなれない。左目の端で本多を見る。うめき声を上げ、大きなモノをそそらせながら必死に耐える様子が目に入った。射精を禁じてしばらくたつ。随分ときつそうにしている。血走るほどに脈打つものが、解放されたいと叫ぶのが聞こえるようだった。

「そうだな……」

二人を交互に見ると、克哉は薄い色素の瞳で笑った。

「本多。お前が御堂を犯せ。最後まで射精せずに耐えられたほうにご褒美をやる。主人の言いつけを守れない奴に興味はない。本多、やれ」

本多を見やる。本多の瞳が驚きに見開かれている。何か言いたいらしく、口枷の下で声が漏れるが何を言いたいのかは分からないし分かりたくもない。

「それは取ってやるつもりはない。ああ、後ろのバイブはハンデ過ぎるな。抜いてやろう」

そう言って本多の首につけられた鎖をぐいとひくと、よろめくように克哉の足元へと来た。足元に這い蹲った本多の後孔に付き立てられたバイブを、抜くふりを一度ぐい、と押し込む。そうして本多から上がる悲鳴のような声を、しばし楽しんでから、ゆっくりゆっくりと抜き去った。バイブは床へとほうり投げる。ごと、として落ちたそれはまだ、柔くうなり声をあげ震えていたが克哉はもう興味を失ったというように目もくれない。

本多は、目の前にうずくまる人形を見ながら、躊躇しているのか、目を泳がせている。

「やるんだ。本多。ご褒美が欲しいだろう?」

そう言うと、本多の瞳が期待にか、揺れた。克哉のほうをちらりと見るが、克哉の目が鋭く本気なのをみて、のろのろと動く。あおむけにだらしなく、股間をさらけだしたまま横になっている御堂へと這いずっていくと、その足をかかえた。

御堂の瞳が、おびえたように歪む。のしかかる男を見て、それから克哉を見た。

「あ……」

自分が今から何をされるのかは分かっているらしく、足の間は興奮を隠せてはいない。しかし、それを与えるのが克哉ではなく、本多であることに戸惑っているようだった。助けを求め怯えた表情をする御堂の顔を見て、克哉は満足そうに笑い

「御堂。許しなくイクなよ」

再度釘を押す。

覆いかぶさる本多が、御堂の足を高くあげ抱え込むと、御堂の後孔へと自分のモノをずぶずぶとつき立てていく。御堂が、喉奥から呻き声を上げた。

「い……」

身体を不自然に折り曲げられて、太いものが入ってくる感触に御堂は身震いした。大きすぎるモノが痛いのか、眉をしかめ歯を食いしばっている。やがて本多が前後運動をはじめると、粘着質な音が小さく部屋に響きはじめた。本多の熱い肉体が、圧し掛かる御堂を圧迫する。御堂はその胸の下で嫌がるようにあがいた。本多の背の後ろに御堂の手が所在無さげにゆれるのが見える。

「う……うううう……」

自分がイってしまわないためか、本多の動きはゆっくりと鈍い。御堂の中に擦りつけたくて仕方ないだろうに、ゆっくり、ゆっくりと抜き差しをする。あまり内壁に当たらないようにしているのか、音はぬちゃぬちゃと響くが、御堂の声もまた呻くばかりで嬌声にはならない。しばらく、そうして腰を振り続けているが、互いに意識の先は克哉にあるからか、たいした盛り上がりはない。御堂はじっと、克哉のほうを伺うように見ている。

克哉はしばらくつまらなそうにそれを見ていたが、すぐに飽きたのかため息をついた。その音に、ぴくりと二人の背が揺れる。

「つまらないな。本多。もっとちゃんとやるんだ。そんなことではいつまでたってもご褒美なんてやれないぞ。そうだ。お前に御堂のいいところを教えてやろう。まず、耳を舐めろ」

言われた通りに本多が御堂の耳を嘗め回す。すると、御堂がぴくり、と反応した。

「次はうなじだ。そう、そのまま、乳首へ降りて。乳首の輪を舌でひっぱってやれ。痛いくらいでいい」

言われた通りに御堂の性感を刺激する本多の動きに、御堂の息がだんだんと荒くなっていく。御堂の目が潤んで克哉を見つめる。その間も、本多のモノは御堂を貫き、前後へと抜き差しされている。本多が、歯でぐい、と御堂の乳首の先につけられた輪を引っ張る。

「んああああああっ」

痛みに興奮したのか、御堂のモノがぴくりと震えた。

「痛いほうが、気持ちいいだろう?」

克哉が御堂に問いかける。

「……痛いの……気持ちいい……です……」

御堂が、克哉のほうを見ながら掠れた声でそう言った。

本多が何度も輪をひっぱるたびに、御堂の体中がどんどんと熱く火照っていく。いつしか腰は、本多のモノをいいところに当てようと本多の動きに合わせて動き出していた。本多もまた、御堂の快楽に堕ちた表情と、腰の動きに煽られたのか、腰の動きがせわしなくなっていく。

「ん……ああっ……。くっ……」

「うう、ううううう」

二人の声が、お互いの身に起こっている変化を如実に語っている。

「頑張らないと、イカされてしまうぞ。本多、もっと御堂を攻めろ。御堂、お前もちゃんと本多を締め付けるんだ」

言われて、腰をぐ、と突き出した本多の動きに御堂がいい所を刺激されたのか、悲鳴を上げた。下肢に震えが走る。一度分かったその場所に、本多は何度も何度もこすり付ける。御堂は、感じているのだろう、首を何度も振って、瞳をうるませながらこちらを見ている。

「気持ちイイか。御堂」

「……いいっ……あああああ……気持ち、いいっ……」

うわ言のように呟きながら、御堂は折り曲げられた姿勢のままに揺さぶられている。克哉からは見えないが、御堂のモノは張り詰めて今にもイキそうに堅くしていた。本多もまた、最後の追い上げとばかりに、強く腰を打ち付ける。鞭打つような響きが部屋に木霊する。二人の乱れる姿に克哉のモノもまた、服のうちで大きくそそり立っていた。それに気付いた御堂が、さらに興奮を高めて息を荒くする。開けられた唇から唾液がこぼれた。

「ああ……」

限界を迎えたらしい御堂の瞳から、涙が零れ落ちる。ずっと克哉を見ていた瞳が、視線に耐えられないというように閉じられた。本多が、最後の一押しをしようとまた耳裏などを舐め上げると、御堂の身体がぴくぴくと震える。このままでは駄目だと分かっているのか、本多の身体を押し返そうと手が本多の胸を押すが、本多はびくともしない。その胸のうちで御堂がもがく。

「もう……イ、イク……いく……」

うわ言のように御堂が言う。

「御堂」

咎めるようにきつく名前を呼ぶが、それでももう押さえ切れないのか首をふり、快感を伝えた。

唇を噛み締め、抵抗しようとするが、本多のモノが的確に御堂の弱いところを突き上げる。御堂の手はいつしか、耐えるために本多の背へと回され爪を立ててしがみついていた。

「もう・・・ああああああ……んっ。いくいくいくいく……」

本多の指が、御堂の乳首のリングをつまみ、ぐい、と引っ張る。

「ああ……もう、駄目、だ……本多……やめっ……イク……。イク……」

何度も何度も、堪えようとしては堪えきれずにうわ言を繰り返す唇が、

「ほんだっ……」

最後に、そう名前を呼んで、そうして身体が跳ねた。強い快感が背筋を這い上がり、頭や足先まできつく染み渡る。御堂の足指が、ぐっと折り曲がって、耐えるように曲げられた。

どくどくと、何度も欲望を本多の胸に吐き出して御堂が跳ねる。きつ過ぎる快楽に耐えるように、背にまわされた手がぐっと本多を抱きしめて離さない。その締め付けに本多もまたイキそうになってあわてて腰を引いた。

本多の名を呼び果てた、その御堂の姿に、克哉の中で憎しみにも近い怒りがざあっと巻き起こる。

克哉は、椅子から立ち上がると乱暴に本多を脇へと突き倒すと、イッたばかりの御堂の頬を、思う様に打ち据えた。高い音が鳴り響く。

「何故許しもなくイッた」

怒鳴り散らしながら、何度も頬を平手で打つ。

「申し訳……あり……ません……」

自分の過ちに気付いたのか、ぐったりとした身体のまま、御堂が震える。

「何故本多の名を呼んだ」

克哉は執拗に、右の頬だけを何度も何度も打ち据える。御堂は怯えきった表情で、頬を赤く腫らしたまま、何度も何度も繰り返し謝罪を口にするが、克哉の手は止まらない。

「御堂。お前は俺の奴隷だ。なのに、俺の命令もきけず、他の男に犯されてイクような屑め」

荒々しく罵倒しながら、御堂を打ち据える。

「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめん、なさい」

克哉に捨てられるのではないかという恐怖に御堂の瞳が濡れ始める。してしまったことへの後悔に、涙がどんどんと溢れる。

「お前は俺だけに奉仕していればいいんだ」

克哉の胸のうちに、どす黒く独占欲が生まれていく。御堂の怯えきった表情に、克哉の息が荒くなる。

「御堂。お前が俺のものであることを、刻み込んでやる」

そう言うと、克哉は自分のたぎったモノを取り出した。御堂が息を呑む。克哉は御堂の髪を掴むと、自分の股間へとあてがい、御堂の顎を掴んで無理やりに開けさせると、その中へと己を突きたてた。

「んんんっ……」

一気に喉奥まで突きつけられた御堂が、くぐもった悲鳴を上げる。

「お前は、俺に奉仕するためだけにある存在だってことを忘れるな」

頭上で克哉の冷たい声が響く。御堂の頭を無理やりに抱え込むと、克哉の手が御堂の頭を揺らしはじめた。御堂はこれ以上の叱責が飛ぶことを恐れ、深く咥えこむと必死に怒張へと唇を這わせ、歯が当たらないようにと舌を絡めて舐めしゃぶった。克哉の自身が快感にひくついているのが舌先に伝わる。どろりと出てくる先走りの青臭い匂いが、喉を通り鼻へと伝わってくる。それに興奮したのか、御堂のモノもまた大きく膨らみ始めていた。襟首のあたりを押さえつけられて、頭をふられる御堂は克哉の茂みへと顔を埋め、必死に舌を這わせ主人へと奉仕する。

口内を荒々しく犯すモノが、時折喉奥まで突きつけられる。そのたびに、吐き気が込み上げ必死に耐えると涙が滲んだ。それでも咳き込んで、また受け入れるために奥まで飲み込みなおす。

「きちんと最後まで奉仕しろよ」

言われ、こくこくと頭を振った。そうしてまた、頭を振られるがままに、唇をすぼませ快楽を煽ろうと必死に舌を這わせる。頭上の克哉の息が荒くなるのが聞こえ、御堂はうっすらと涙を潤ませた瞳を克哉へと向けた。御堂の瞳が克哉を見つめている。その視線は熱く、何かを求めているかのように真摯だった。必死に自分の怒りを納めようと苦痛に耐えるその顔が、劣情をそそる。また、喉奥まで深く突き進めると、辛そうに顔を歪ませ、込み上げるものを必死に飲み込み耐えている。

「御堂……」

体中の毛が総毛立つほどの衝動が沸き起こる。もっと、手酷く苛め抜きたい。もっと、自分だけしか見えなくさせたい。もっと苦痛に顔をゆがめさせて、それでもなお受け入れて欲しい。もっと、もっと、もっと。溢れてくる想いに名をつけられないまま、克哉は衝動のままに、手と腰を突き動かし、解放へと進めた。

御堂の口内で膨れ上がったそれが、解放を求め先走りをだらだらと溢しながら口内を蹂躙する。衝動のままに犯すそれは、喉奥へと何度も何度も突き立てられるようになった。息をすることすら叶わず、身体の奥で咳き込んで身体を揺らしながらも、解放の手伝いをするように、より深く吸いこむ。

「残さず、飲むんだ」

少し震えるような声が頭上からふり、御堂の口内へと白濁が多量に注ぎ込まれる。

「んんんんんんっ……」

喉へと注がれたおびただしい量の精液に、御堂の口内はいっぱいになる。必死に鼻で息を吐き出しながら、御堂はそれを飲み込もうと必死に吐き気を逃がした。

克哉は、出し終えてもなお御堂の口内にモノを残したままで、上からがくがくとふる。

「さあ。飲め」

言われるがままに、御堂が飲み込む。苦い味が喉へとべったりと張り付いて、落ちていく。あらかたを飲み込むと、唾液をわかせて、克哉のモノに残ったものを舐め上げてきれいにした。舌が克哉の萎えたものを這い回り、すべてを飲み込んだことを確認するとようやく克哉は自身を口から引き抜いた。

御堂は、自身を立たせたままにしおらしく自分を見上げながら、克哉のモノを両手に持ち大事そうにゆっくりとしまうと、教えたとおり歯でジッパーをじじじ、とあげた。

赤く腫れた頬をそのままに、じっと自分の命令を待つ奴隷を前に、克哉は目を細める。腹には、先ほど出した白濁がそのままに舞い、後孔からは本多の放ったものが、どろりと溢れ垂れていた。

「お前は……俺だけのものだ……」

克哉が独り言のように呟く。そうして、御堂の首につけられた鎖を持つと、そのまま御堂を力づくに引きずり部屋を出て行く。御堂の瞳が一瞬本多を見たように、みえた。

(お前は……俺だけのものだ……)

(俺だけの……)

そうして、暗い部屋の前へと来ると、御堂をその中へと突き飛ばして、これから行うであろう企みを思って、笑った。

 

残された部屋では本多が前を立たせたまま一人、呻いている。脳裏に浮かぶのは、克哉の御堂を見据える欲望に濡れた瞳。決定的に届かないところにいってしまったその瞬間の目撃者は、嘆くように呻き続けていた。

赤い赤い館はすべてを飲み込み、闇夜のうちに、また気配を消していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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