味わう







「今日は本多と飲みに行ってくる」
仕事が終わり、スーツの上着を羽織りなおすと克哉は御堂に声をかけた。
「ああ、分かった」
御堂はまだ資料作りが終わっていない。
「帰りは何時ごろだ?」
パソコンから目を離さず、そう問いかけた。
「さあ、どうだろうな。あいつ絡むと長いからな。まあ、日付が変わる前には帰る」
「そうか」
そう言うと、また仕事に意識を戻す。
「御堂さん、最近妬いてくれないな」
「ふっ、何を馬鹿なことを言っている。信頼の証だと思って貰えないか」
「信頼、ね」
「今日はお前の家で待っている。
せいぜい酒臭くして、キスで萎えさせない程度にしろよ」
「くっくっくっ・・・。うまくなったな」
そう言うと、ひらひらと手をふって克哉は出ていった。



結局資料が作り終わったのは夜9時過ぎ。
会社には誰も残っていなかったから消灯して、戸締りをしてから克哉の部屋へと向かった。
克哉は外で食べるから、と一人で簡単にパスタを作って食べた。
今頃本多に絡まれてうんざりしている頃合かもな、と思いほくそ笑む。
まだ帰ってくるまでには時間がありそうだから、とシャワーを浴びることにした。
熱い湯に体を任せるのは気持ちがいい。
しばし、湯にうたれるがままにしていた。
克哉が何時に帰ってくるかは分からないが、その後の展開なら分かる。
(こちらもワインくらい飲んでおいたほうがいいかもな)
相手のテンションについていけない可能性も考慮に入れて、対抗策を考える。
あとはしばし、どのワインにどのつまみを合わせるかのほうに意識がいった。

風呂上り、髪をタオルでふきながらリビングに戻るとすでに克哉がいた。
ソファでシャツ一枚になってくつろいでいる。
「早かったな」
声をかけると、仰向いて、
「あんたがあんなことを言うから、たまらなくなって帰ってきた」
そう言うと、不敵に笑う。
「おかえり」
ソファに座る克哉の髪をそっとすいた。
「こっちに座れ」
そういって、手を引き寄せられる。
その手のままに、横へと座った。
「味見してみるか?」
そう言うと、唇がやさしく重なる。
ぴちゃぴちゃと、お互いの唾液の音が鳴り、舌を絡めあい、深く味わう。
しばらくそうして堪能したあと、唇を離した。
「タバコの味がするな」
笑って、御堂が言った。
「それはいつもだろう」
そう言うと、足りない、というように御堂の唇を指で撫でた。
「ああ、悪くない」
気にして酒の量を減らしたらしい恋人の首を抱いて、
もう一度堪能すべく、深く唇を重ねた。














back

inserted by FC2 system