愛してる









克哉が、その淫蕩の館に囚われて、どれほどの時が立ったのか。
ほんの数日のことのようでもあり。
遥か永久とも思える時間のようでもあり。
黒い革の首輪に繋がれた克哉は、惚けたような顔をして、地べたに座り込んでいた。
その身体には、自分のものとも他人のものとも知れぬ精液の痕がいくつもこびりついている。



ドアを開ける音もなしに、Mr.Rが部屋へと滑り込んでくる。
「こんばんは」
その声に、克哉は嬉しそうに顔をあげた。
「Mr.R・・・」
「おやおや、また身体を一杯汚して。
今日もたくさんの方のお相手をしましたからね」
「はい」
「ご苦労様でした」
「皆さん、とても可愛がって下さいました・・・」
「そう、それはよかった」
よしよしと、頭を撫でる手に、克哉は目を細めた。
「頑張った貴方に何かご褒美をあげましょう。
何がいいですか?
甘い甘い柘榴?
それともまた私の可愛いペットと遊ぶ?
それとも、何かまた新しい玩具がいい?」
首をかしげて、克哉の顔を覗き込む。
「あの・・・」
もじもじと、顔を赤らめてMr.Rの目を見つめた。
「・・・抱いてください・・・」
「ん?」
聞き返されて、もっと克哉の顔が赤くなる。
「・・・貴方に・・・抱いてほしいんです・・・」
そういって、物欲しげに口をあけた奥から赤い舌が覗いた。
「そう・・・」
Mr.Rが含み笑いをする。
「最近、抱いてあげていませんでしたからね」



「よい趣向を思いつきました」
そう言うと、Mr.Rは克哉の腕を後ろ手でしっかりと拘束した。
克哉はそうすることに慣れているのか、抵抗せずに、薄い笑みを浮かべたままだ。

全裸の身体は、赤く上気している。
「これを飲んで」
そういうと、ワインのような液体を克哉の唇に運ぶ。
それは即効性の催淫剤。
ごくごくと音を立てて飲み干した。
「あ・・・」
甘い液体が、とろりと喉を通っていく。
ちりちりと、更なる熱さが身体のうちから湧いてくる。
「ん・・・」
「膝の上に乗りなさい」
命令に対して、克哉は嬉しそうにベッドの脇に座るMr,Rの膝の上にまたがった。
押さえきれずにもじもじと腰をふり、続きを催促する。
深くキスをするとそれだけで克哉のモノはびくびくと痛いほどに勃ち上がった。
Mr.Rは革の手袋で克哉の尻を掴むと、その身体を持ち上げ、
己のそそり立つ肉隗を突き入れた。
「ああっ・・・んんぅ・・・・・・・」
甘い吐息が耳元で響く。
感じるポイントを思うさま突きながら、首や耳に舌を這わせると、悦びに打ち震えて首筋に顔をこすり付けた。
ぐちゅぐちゅと音を立てる粘膜の音が響き渡る。

「さあ、お顔を上げて?」
潤んだ目で顔をあげる克哉に、Mr.Rはにっこりと微笑む。
その顔は、強い快楽に惚けきっていた。
催淫剤が効いた身体は何もかもに快楽を覚えて、Mr.Rの指の動き一つ一つにどうしようもなく反応している。
Mr.Rが、そっとベッドサイドから何かを取り出した。
「目を閉じて」
言われるがままに、克哉が目を閉じた。
さっと、目の前にかざされる、手。





「どういうつもりだ」
そこにいるのは、憎悪に満ちた、克哉の目。
その端正な顔には、細いフレームの眼鏡がかけられている。
「こんばんは」
Mr.Rはにこやかな笑みを浮かべたままだ。
「どういうつもりだと聞いている」
超不機嫌そうな苦虫を噛み潰した顔で、克哉は声をあげる。
「貴方に、お会いしたくて」
いけしゃあしゃあというMr.Rの言葉が勘に触ったようで、克哉はMr.Rの顔に唾を吐きかけた。
それにもMr.Rは平然として、舌で舐め取った。
「貴方のペルソナも淫乱で可愛いですが、
私がお慕いしているのはやはり貴方一人ですから。
どうせ抱くのであれば、貴方がいい。ただそれだけのことです」
そういうと、Mr.Rがまた克哉の首筋に舌を這わせた。
抵抗しようとするが、両手は後ろ手に縛られ、その身は深く深くMr.Rと繋がっている。
抵抗しようがなく、舌の刺激にどうしようもなく反応する身体。
「ううっ・・・」
低いうめき声が漏れる。
「感じて、下さってるんですね」
嬉しそうに耳元で囁くと、そこに吐息をふきかけた。
「ああっ・・・・・止めろ・・・」
顔を高潮させて、にらみつける。
「駄目ですよ。止めません」
抵抗しようにも、身体は催淫剤によって敏感に研ぎ澄まされている。
腰を深く深く突き上げられるたび、切ないような声がどうしようもなく漏れる。
「所詮、貴方とペルソナは同一人物。
この淫乱な身体は、貴方のものでもある。
貴方はいつも、ペルソナの中で、彼が抱かれている間も、
お強い貴方は意識を保っておられたのでしょう?」
刺激にびくびくと反応しながらも、克哉は歯を食いしばって声を耐えた。
「・・・煩い黙れ」
「どうでした?
大好きなペルソナが、たくさんの男に組み敷かれているご様子は。
あの方は本当に天性の淫乱です。
私も調教しがいがありました。
貴方はペルソナの中で一部始終を感じていたはずだ。
貴方も一緒に、善がり狂っていたんじゃないですか?」
「詮索はやめろ。反吐が出る」
憎まれ口を叩くのをやめない克哉に、Mr.Rはにやりと笑う。
「強情ですね。さすが私の王。
では、このお体に聞いてみましょう・・・」
そういうと、Mr.Rが克哉の腰を掴むと下から激しく突き上げはじめた。
狙うのは、敏感なポイントただ一つ。
「・・・んあっ。うう、んっ。やめ・・・ろ・・・。趣味じゃない・・・」
そう言いながらも、散々高められた身体は強い快楽を隠し切れない。
前からは先走りの汁がぬるぬると溢れている。
それに指をはわせて、優しく亀頭をなでまわして粘液をこすりつける。
「んん・・・。ああ、はぁ・・・やめ・・・」
吐息が乱れて言葉が出ない。
「欲望を、解放しなさい。
貴方の中にも眠る、嗜虐の喜びを」



荒い息が部屋中を満たす。
嫌悪と憎悪がぐるぐると巡るが、身体は素直に喜びを貪婪に要求する。
「・・・は。ああっ・・・」
潤んだ目で、それでもにらみ付ける克哉に、Mr.Rが口づける。
「愛していますよ。我が王」
耳元で囁いた。
「・・・やめろ。気持ち、悪い・・・」
ぞくりとからだが震える。
「貴方のそのプライドの高さ。その欲望。その憎しみ。その独占欲。
すべてが愛おしい」
「・・・汚らわしい」
「ペルソナが嗜虐の喜びに塗れて悦ぶたびに、
貴方がどれほど屈辱に塗れているか考えるだけでたまらない」
「んんっ・・・。ああ、あああああああ」
「あの猥らな姿もまた、貴方自身。
加虐の悦びも、嗜虐の歓びも、すべてが貴方のうちにある」
「いや・・・だ・・・。やめ・・・んんんんっ・・・・・。うう」
「そう。イっておしまいなさい。
そうしてまた、ペルソナの中で私を憎悪するといい。
けれど貴方は逃げられない。
永遠にペルソナの中で、私のことだけを考えて居ればいい」
「ああ、あああああぁあああ」
「愛しています」






「・・・お前を、殺してやる」
「ええそうですね」
「殺してやる・・・」
「愛していますよ」



「愛して、いますよ」










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