タイムリミット









「では。また連絡する」
そう言って、御堂と別れてMGNへと向かった。

(熱い肌だった・・・)
ひさしぶりに聞いた御堂の声、触れた肌のすいつくような滑らかさ、
震えるような告白、張り詰めた肉隗、潤む瞳、熱い熱い身体。
すべてが愛おしかった。
職場への道を急ぎながら、克哉は昨日のことを思い返していた。
(・・・好きだ)
確かに聞いた声。
確かめるように、何度も頭の中でリピートする。
自分を拒むことしかしなかった御堂が、自分を受け入れて、
そうして、善がり狂う様は、最高だった。
唇の柔らかい感触を思い出し、ふと唇に触れる。

(・・・もう離さない)



胸の奥から込み上げる思いをかみ殺し、克哉は前を向いた。







「何?あと二週間でやめるだと?何を馬鹿なことを言ってるんだ」
大隈専務が、あきれたといった表情で大声をあげた。
「ええ、以前からこのプロジェクトを最後に退社させていただこうと考えておりました」
「何故だ」
「自分で、会社を興すことにしたんです」
「は?一人でか」
「いえ、以前この会社に居た御堂部長と二人でです」
「・・・は?」
あっけに取られたような顔で、大隈専務が口をあけたまま固まった。
「そういうことですので、勝手なお話ですが
あと二週間は引継ぎのために動きたく思います。早急に後任を決めて頂けますか?」
「ふふふふふはははははははっ」
固まったままの大隈専務が突然笑い出した。
「いやーそれは面白いな。
君は何でも与えた仕事をやり遂げてくれるし我が社にとっては不可欠な存在だが
最近うちで何をやっても物足りないような顔をしていただろう。
だからといってこれ以上の役職では、現場から離れることになるから
余計に退屈するんじゃないかと思っていた。
我が社に飼い殺すのはそろそろ限界か、と思っていたのは確かだ。
それにしても、御堂君と、というのには驚いた。
君はやることなすこと本当に面白いな」
「有難うございます」
「元気にしているのか。御堂君は。
突然の無断欠勤に退職だったろう、褒められたやめ方ではなかったが
今にして思えばプロトファイバーのあの功績は彼が作り出したところが大きい。
何故引き止められなかったのかとこちらとしても気にかけていた」
「ええ、元気にしているようです。きっと彼となら面白い仕事が出来ると思います」
「面白いタッグじゃないか。我が社としては痛いが応援しよう」
思ったよりも明快な答えを受けて、克哉は深く頭を下げた。





それからの日々は多忙を極めた。
17時まではMGNで、次の担当との引継ぎをこなし、
アフター5は、起業のための資料集めや勉強や登記の準備などを行う。
昼の休憩の間にも、役所関係の手続きを進め、
仕事が休みの日は、勉強に明け暮れたり、資金繰りに帆走した。
元々、株やらなんやらである程度の資金はためておいたとはいえ、
御堂に指定した一ヶ月、という期間は何をするにも短い。
(だが、それ以上はきっと待ちきれない)
離れているのはもう限界だ。
今日もまた、夜遅くまで駆けずり回って、深夜ようやく自宅に帰宅した。
ばたん。
扉を閉める。
部屋に入りながら、ネクタイをはずし、シャツのボタンを二つはずした。
ため息をつく。
さすがに疲れが溜まっているようだ。
上着を脱いでとりあえずリビングの椅子にかけると、電気もつけないままに狭い部屋のベッドに寝転がった。
(こんな部屋には御堂を呼べたもんじゃないな)
低い天井を見上げながら、昔御堂が住んでいたマンションを思い出した。
だいたい、この部屋ではダブルのベッドを入れるのも一苦労だろう。
思う存分乱れさせる余裕もないじゃないか。
そんなことを考えていたら・・・あの日の御堂の姿が目に浮かんだ。

羞恥に悶えながらも、欲望を隠せない顔。
確かに、俺を欲しがっていた。
漏れる声は抑えることもできず、耳に甘く響いた。
毎日、否定しかしなかったあの御堂が、自分を受け入れようと自ら足を開いて・・・。
(好きだ・・・)
何度も繰り返し頭の中で繰り返した声。
抱きしめるとおずおずと身を預けて、唇を貪ると身体が震えていた。

克哉はベッドから身を起こすと、ベッドの端に座った。

薄暗い部屋は、カーテンの隙間から月明かりが入り込んでいる。
かちゃかちゃと、ズボンのベルトを性急にはずす。
すでに高まり始めたソコに手が伸びる。
妄想の中で、御堂の手を後ろ手に縛り、四つんばいにさせて身体を組み敷いた。
大きな鏡に、その姿をすべて映し出してやる。
塊を窪みに、そっと触れさせるだけで期待に身を震わせる。
ろくにほぐしもせずに突っ込むから、痛みに顔をしかめるが、
それでも受け入れようと、眉根を顰めながらも声をかみ殺している。
そんな御堂を恥ずかしい言葉で揶揄しながら、少しずつ腰を動かしてやる。
できるだけゆっくりと、
でも、気持ちイイところに当たるように、深く、深く。
きっと、声を殺そうとするだろうが、口に手をかけ、下唇をなぞってやれば、
きっと唇は厭らしくひらき、唾液が落ちるまま、あられもない呻きが漏れ出すだろう。
その様子を想像しながら、ゆっくりと自分のモノを扱きはじめる。
はじめは、ゆっくりと。
身体が十分に開いたら、次は前を触ってやる。
きっと、硬くして、甘く濡れているだろう。
茂みをまさぐってやるだけで、高まりきった前がびくびくと震える。
前への刺激は、あくまで軽く。
触れるほどに優しく。
物足りないほどに、軽く。
御堂がより強い刺激を求め腰をふったとしても、与えてはやらない。
前に意識が行きはじめた身体を、突然思うが侭後ろから突き上げる。
突然の刺激に声は悲鳴に変わる。
そうなったら、御堂の制止も悲鳴もすべて踏みにじり、
腰を両手で押さえつけ乱暴に突き入れる。
御堂は揺すられるまま、シーツを掴み激しい快楽に涎をたらし、善がるだろう。
名前を、何度も呼ぶかもしれない。
想像の中の御堂にそうするように、腰をふりたて、手を何度も擦りつけた。
息が乱れる。
急激に上り詰める。
(好きだ・・・)
あの告白がまた耳の中で響き、
真っ白に世界が歪む。



べったりと手に残る白濁。





流し台で、手を汗した顔を洗う。
冷たい水で、火照りを冷やす。
・・・全然足りない。
本物の肉でないと、満足できそうにない。
会いたい。

精を吐き出して冷めた頭で、御堂を思う。

甘い悲鳴の合間に見せた、
一瞬の、怯えた表情が脳裏に浮かぶ。
御堂の中で、すべてが消えた訳じゃない。
(分かっているさ)
自分が御堂から奪ったものの、大きさ。
忘れた訳じゃない。



だからこそ、
この一ヶ月が勝負になる。
奪った、それ以上のものを与えられないのならば
この再会に意味はない。
(責任を取れ・・・)
自分が奪ったすべてのものよりも、遥かなる高みへ。
あんたを連れて行くから。
俺が。





そう一人ごちて、ベッドに倒れこんだ。
明日は早いのに、まだ眠れそうにないと分かっていながら
目を閉じて、
「・・・御堂」
一度だけ、
名を呼んだ。













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