「社長、蜂蜜好きですか?」
そう言って出された瓶を目にして、俺は
「何だこれは?」
と、言わざるを得なかった。




蜜月






30p位の大きさの瓶に入った、黄金色のそれは蜂蜜である事が知れた。
だがそれがどうして、仕事場であるAAにあるのか。
差し出した藤田を見上げれば、気が抜けるような緩い笑みを浮かべていた。
「実家から送られて来たんですけど、僕使わないんで。」
だからもらってくれないか。
そう、続けられる。
出社した途端そんな事を言われ、俺はパソコンを開いた手をそのままに固まる。
蜂蜜などもらっても、俺だって使い道がない。
「すまないが俺も…」
「いいんじゃないか、もらっても。」
 断ろうとしたところで、横から声がした。
右隣を向けば、同じくパソコンを立ち上げて書類を取り出しながら、御堂が真顔でこっちを見ていた。
「別にもらって困るものでもないだろう。何か料理を作る時にでも使えばいい。」
 料理をしない人間が何を言っているんだ。
余計な事を言うなと御堂を睨み付ける。しかし御堂は気にしていないようだった。
そうしている間に藤田はそうですよ!とか言いながら、俺のデスクに不似合いなそれを置いて自分の席に戻っていった。
俺は結局それを返す気にもなれず、仕方ないからもらう事にした。
黒いデスクの端に置かれたそれを、御堂が通り過ぎる度に笑って見ていくのを恨めしく思いながら。

夜。同じ建物の居住区にやってきた俺は、家に戻ってすぐにそれをキッチンに置いた。
ジャケットを脱ぎ、ネクタイを外してハンガーにかけ、ボタンを二つ程外す。
そしてキッチンに戻り、冷蔵庫から水を取り出してキャップを開け、3分の1の量を一気に飲み干す。
週末な事もあり、招いた御堂は俺のそんな様子を横目に、置いたハチミツの蓋を何気なく開け始めた。
結局、気になってるのはお前の方じゃないか。
そう突っ込んでやろうと思った。だが、御堂が無遠慮に瓶に中指を突っ込み、
絡めて掬い上げる動作を見て、俺は目を離せなくなった。
指から黄金色のそれが瓶へと滴り落ちる。それを全部飲み込もうと赤い舌が下から絡みつき、そのままグルグルと
指の周りについた蜂蜜を舐めあげ、そして銜え、ちゅっと音を立てて吸い上げる。
口から離れたその指はてらてらと濡れ、淫靡な色を醸し出している。
「ん、美味いじゃないか。」
 そうして笑む御堂が酷く、艶やかに見えた。
濃厚な蜂蜜の甘い匂いと、御堂の笑み、そして無意識の色香。
――――――――誘われないはずがなかった。



「ねぇ御堂さん。良い事、しませんか?」

 俺は自然と、そう言って御堂の頬に手を触れていた。



「良い事?」
 近づいた俺に御堂は何かを感じたのか、眉間に皺を寄せた。
そんな御堂の唇を親指でなぞる。
それによって僅かに開いたそこに、そのまま軽く忍ばせた。
爪に歯が当たる。綺麗な歯並びのそこをなぞってやれば、御堂は何をしたいのかわかったらしく、頬を染めた。
「な、何を言ってるんだ君は!」
 慌てて俺の指を払う。ちっ、やはりそう簡単にはいかないか。
予想していた反応に、払われた親指を舐めながら言う。
「折角の二人きりの夜ですし、ここにいい材料もある。
使わない手はないだろう?」
 そうして俺も開いたままの瓶に右手の人差し指と中指を突っ込み、何度か掻き混ぜてから掬い上げた。
わざと遠くまで持ち上げ、長い糸を引かせる。
それを下の方から舌で受け取り、徐々に指へと近づけていき、御堂の方を見ながらじっくりと銜える。
じゅるっ、と淫猥な音を立てて吸い上げ、まるでアレを愛撫してるように指を抜いたり入れたりを繰り返す。
にちゃにちゃと、指で自分の口内を掻き混ぜるその行為に、御堂は釘付けで、
目元を染め、生唾をゴクリと飲み込む音をさせた。
俺はその物欲しげな顔に笑み、口から指を引き抜くと、御堂の耳元に顔を近づけて言ってやる。
「ねぇ、欲しいでしょう?貴方も、この甘い蜜が。」
 低く、吐息混ざりに囁いてやれば、御堂はコクリと頷き、俺の手の中に堕ちてきた。




「本当に…するのか?」
 サイドに置かれた照明が照らす、寝室。
キングサイズのそのベッドに横たわる、全裸の御堂の姿。
その顔は不安そうに歪められていて、見るからに嗜虐心を煽る。
俺はその御堂の上に跨り、藤田からもらった蜂蜜をスプーンで掻き混ぜていた。
あの後すぐに寝室に移動した俺達は、キスをしながら互いを脱がせていった。
キスが好きな御堂は何度も何度もキスを強請るので、俺はそれを受け入れながら御堂を剥いていく。
御堂が全裸になるのと、御堂が力を失い倒れ込むのは同時だった。
腰を掴み、御堂を支えてやりながら俺はベッドの上にシートを広げる。
御堂は荒い息を吐きながら、何をしているんだと訊いてきた。
俺はお前に蜂蜜を垂らし、全身を味わいたいと即答してやった。
すると、抵抗し始めたので、またキスで黙らせる。
欲しいと言ったのはこいつの方なのだ。今更抵抗しても遅い。
敷き終わった後御堂をベッドに横たわらせ、俺も乗り上げる。
そして蜂蜜を混ぜながら、どうしてやろうかと俺は思案していた。
とりあえず、スプーンを救いあげて胸の中心に垂らす。
冷たい感触がしたのか、御堂は一瞬体を竦ませる。
俺は気にしないで二、三度垂らし、蜂蜜を置いて胸のそれを指で伸ばした。
「ぅ…」
 御堂が顔を真っ赤にして呻いた。
「どうです、蜂蜜の感触は?」
 ぬるぬるとするそれは御堂の白い肌を黄金色に染め上げていく。
わざと指先で伸ばすようにしてやれば、御堂は
「へ、変な…ぁっ…感じだ…」
 それすらも快感なのか、恥ずかしそうに返してきた。
本当に、快楽に弱いな。
思わず笑みを浮かべながら、蜜で淫猥に濡れた真っ赤な実を抓ってみる。
「あっ!」
 ピクンと体が跳ねた。
「くく、厭らしいなぁ、御堂さん。蜂蜜塗られただけでもうこんなに興奮して。」
 そう言いながら胸を捏ね回し、時折引っかいてやる。
耐えられないのか、御堂は厭々するように頭を振る。
「ち、ちがっ…あぁ!」
 頑固な口だ。俺は蜂蜜を突起に目掛けて垂らし、それをパクリと銜えた。
その瞬間御堂は明らかな嬌声を上げた。
口内に広がる甘い味。
それを塗り付けるように舌で突起にこすりつける。
御堂は口元に手を当て、必死に声を上げまいとしていた。
俺はそれを剥がして言う。
「声を我慢するなと言っているだろう。」
艶のあるこいつの声が、どれだけ自分を煽るのか、いい加減に気付け。
それでもやはり抵抗する御堂の手首をネクタイで縛り、ベッドヘッドに固定する。
「佐伯…やだっ、外してくれ…」
そういうプレイでないとわかっていても、まだ蟠りが残っているらしい御堂は本当の意味で泣きそうな顔をして俺を見る。
それが苛めたくなるんだと言いたくなったが、不安にさせるだけなので言わないでおく。
もう二度と、壊れたこいつを見たくないから。
「大丈夫ですよ。ただ、気持ちよくするだけですから。」
そして蜂蜜を腹へ、足へ、僅かに反応している自身へ垂らしていった。
「あっ…ぅ、ん…!」
マッサージをするように全身に塗りたくりながら、舌で乳首を愛撫する。
敢えて自身には触れずに付け根辺りを触れては離れを繰り返していれば、御堂は
気持ちがいいのか溶けた顔をして、快感を甘受している。
腰が揺れているのに、気付いているだろうか。
太腿から下の方へ舌を滑らせ、脹脛をなぞり、そのまま指へと辿りつく。
また蜂蜜を落とし、俺は左足の親指を銜えた。
「ひぁっ!…や、やめっ!…」
 大きく体が震え、反射的に俺を蹴飛ばそうとするのを押さえつけ、再び舐め上げる。
爪の間まで舌を尖らせて突き、音を立てながら水掻きにもキスを落とす。
「ふっ…ぅ…さえ…き…ぃ」
 耐えられないと、御堂はついに一筋の涙を流した。
普段とは違うシチュエーション、そして全身を隈なく攻められるのが、感度が強いこいつには
拷問のようにさえ感じるのだろう。
その涙が、俺の与える快楽に夢中なのだと言って、そんな俺を夢中にさせる。
煽っているようで煽られているのは俺の方だ。
もっと、こいつを乱して俺だけしか見れないようにしたくて堪らない。
滑るシートの上を這い上がり、真っ赤になった目元を舐める。
濡れた紫紺の瞳が開き、俺を見上げた。
唇がくっつく程の距離で俺は問いかける。
「気持ちいいか?」
 答えなんかわかってるのに、訊かずにはいられない。

「―――聞くな、馬鹿…」

 その照れたような、拗ねたような顔をもっと俺に見せてくれ。
そしてもっと、快楽に堕ちてくれ。

俺は勃ち上がり、透明な雫を垂らし蜂蜜と混ざり合って淫猥なそこを、一気に銜えた。
「あぁぁっ!!」
 そのまま容赦する事なく、蜜に濡れた指を後孔に差し込む。
御堂の体はビクビクと震えた。
強すぎる快楽に御堂は理性を失い、頭を振りながらも悶える。
もう、俺にも余裕はさほどなかった。
何度か中を掻き回し、イきそうになる御堂の根元を掴み、射精を止めながら指を引き抜き、早急に挿入する。
「ひあぁ!ま、さえっ…!待って、ああっ!」
「待てないっ…御堂!」
 腰を強く打ちつけ、熱くなった御堂のそこを攻め立てる。
御堂は快楽に喘ぎながら、何度も何度も俺の名を呼んだ。
「佐伯、さえ、き…さえき!!」
「御堂、愛してる…!」
 俺も打ち付ける腰の数だけ愛の言葉を呟く。
そしてどちらともなくキスをして、俺達は同時に達した。



その後、俺達は暫くそのままの状態でいたが、
御堂が気持ち悪いと激しくのたまったので、一緒に風呂に入って第2ラウンドに突入したのだった。
そして寝室に戻ってきた御堂は、大分減った蜂蜜を目にして
「もう二度と見たくない!」
 と怒鳴りながらそれを捨てに行った。
俺はその様子を見ながら柱に凭れかかり、
「御堂さんは蜂蜜を塗らなくても、充分甘いですもんね。」
 と呟いていた。
その瞬間振り向いた御堂の顔が、真っ赤になっていて可愛かったなんて、
牙を剥いて襲いかかってきた御堂には間違っても言えない…わけがなかった。

「可愛いですよ、御堂さん。」
「黙れ!」
「可愛くて、最高の恋人だ。」
「五月蝿い五月蝿い五月蝿い!」



「御堂さん、愛してますよ。」


「……私もだ。」



 こんな平和な日常も、ある意味刺激があって面白い。
最悪な出会いから始まった恋は、今は幸せで仕方ない恋になった。











相互リンク記念に何か書いていただけるというので、
「あの」神城様相手に甘甘エロをリクエストした私。ほほほ鬼畜。
うん。なんていうか自分に書けないものを書いてもらおうと思ったんだ(酷)
でも、そのおかげでエロすぐる萌えを頂けて大満足大感謝!!!
安心して砂吐きます。







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