C-2







38日目。

針で、薬を打たれた。
痛みのあと、広がっていく興奮。
自分の本質が加虐にあるから、
出来るなら興奮のままに御堂を散々啼かせたいと頭で妄想するけれど、
拘束具にかたく縛められた全身はぴくりとも動かず、
噛まされた猿轡の下うめき声をあげて、勃起したモノを舐め上げる男の視線に耐える。
出したい出したい出したい出したい。
だが革の拘束具がソコを噛み、その願いは達成されない。
そういえば自分も御堂に似たようなことをした。
その時御堂は意識を飛ばした。
そんなことを思い返した。
今ならその気持ちも分かる気がする。





56日目

御堂の部屋から戻るとすぐに拘束され、水責めにあった。
タライの中に顔を突っ込まれる。
罰という意味では効果的なのかもしれないが、やられるほうはたまったものではない。
ひきあがるたびに必死で空気を吸う。
水が気管に入って激しくむせたが顔を上げてもらえなかったので
水の中でごぼごぼと音が鳴った。
もう死ぬ、と思う寸前で的確に顔が上げられる。
そして、必死に息を吸った途端、また沈められる。
どれだけ続けられたか分からない。
終わった頃にはぐったりと全身から力が抜け落ちていた。
さぞやMr.Rは加虐に愉しんでいることだろうと思うと腹立たしい。
もう二度とこれはされたくない。





82日目

ぐるぐると世界が回る。
込み上げて嘔吐したが、液体だけが身体を汚した。
きつい匂いが身体につく。
1日が、長すぎて嫌になる。
Mr.Rの足音が聞こえるだけで、吐き気が止まらない。





103日目

何度抱いても御堂は目覚めない。
それでもまた抱きたい。
目の前にすると、止められなくなる。
多分長い責め苦をそれでも耐えるのは、
御堂を抱きたいからだ。
犯したい。犯したい。犯したい。犯したい。
一日が、この一時間だけで構成されていればいいのにと思う。

また酷く鞭を使われた。
背中が膿んで、背中を汁が伝った。
虫が這うようで気持ち悪い。





123日目

何のために毎日罰を受けなくてはならないのか分からない。
御堂を抱く。
罰を受ける。
御堂を抱く。
罰を受ける。
欲しがる御堂に与えて何が悪い。
御堂は何度でも犯されたいと願っている。
罰は嫌だ。
またMr.Rが水を持ってくる音が聞こえた。
嫌だ。






「こんばんは」
Mr.Rが扉をあけると、ベッドに横たわった克哉が背中を向けていた。
声を受けて、ゆっくりと振り返る克哉にはいつもの通り目隠しがついている。
「今日も、お楽しみでしたね」
近づいて、髪をぐっと掴んだ。
しかし、いつもなら歯を食いしばり眉をひそめる顔が、
今日は奇妙に首をかしげた。
「・・・誰・・・?」
訝しげに誰何の声をあげる。
その声には少しのおびえが含まれていた。
「おや・・・?」
Mr.Rが近づくと、びくりと身体が震えた。
「痛い…。俺、なんで・・・」
真っ暗で、拘束されている状況に怯えた声で、問いかけてくる。
「おやおや。貴方は・・・」
ようやく事情が飲み込めたMr.Rが、髪を掴んだままで顔をもちあげた。
「ペルソナ、ですね」
「・・・Mr.R?」
声に、ようやく髪を掴む人物が分かったようだ。
「なんで・・・俺・・・こんなところに・・・。
ここ、どこなんですか?なんで、俺・・・?」
何もかもが非日常過ぎて、混乱しているようだ。
「ペルソナ・・・。
もう、あの御方に取り込まれてしまったかと思ったのですが、
あの方の中に、まだ棲まわれていたのですね」
「ペルソナ?なんですか?それ・・・」
何がなんだか分からない。
だが、この状況が異様なことだけは分かる。
「これ・・・解いてください。なんでこんなことをするんですか?」
拘束を解こうと身体をよじりはじめた。
だが、そんなことで解けるはずもない。
Mr.Rはしばらくそんな克哉の様子を見ていたが、おもむろに膿んだ背中をなで上げた。
「いたっ・・・」
「貴方は、罪を犯したんです。
だからここで、罰を受けているんですよ」
「罪・・・?」
混乱する頭の中、克哉は思い出そうとした。
かすかに残る記憶をたどる。
それはやけに遠い、遠い記憶のようにおぼろげで、
だが、少しずつリアリティを持ってよみがえってくる。
それは、
嬉々として御堂を嬲る、『俺』の姿。
「み、どうさん・・・?」
はじめに浮かんだのは、御堂の部屋に無理やり押しかけてワインを飲ませレイプした記憶。
それから、本多と共に押しかけ、キッチンに連れ込んだ記憶。
いくつもの記憶がよみがえる。
そしてその記憶は、御堂を監禁したあたりで途絶えていた。
「・・・オレ・・・」
眼鏡をかけた自分が犯した罪が蘇ってくる。
「御堂さんに・・・なんてことを・・・」
「ええそうです。
貴方は御堂孝典さんを監禁、陵辱して、廃人に追い込んだ」
「・・・はい、じん・・・」
「その罰を受けるために、ここにいるのですよ」
「みど・・・さん・・・」
聞かされる言葉に呆然とする。
御堂部長。
自分の中にある御堂孝典は、仕事が出来るが偉そうな取引先の部長、でしかない。
そんな彼に、自分はなんてことをして・・・。
「なのに、あの御方は罰を受けることから逃げ出したようですね。
だから貴方がここにいるのでしょう」
「『俺』が・・・逃げた?」
「もしかしたら、解放の時間だけ自分が愉しもうと思っているのかもしれませんが・・・」
そう言って、にいと笑う。
「ねえ、ペルソナ。
貴方は罰を受けるべきだ。
人一人を追い詰めて壊してしまったのだから。
御堂孝典さんは貴方のせいで、壊れてしまった。
貴方のせいで、会社を追われ、心を壊し、男たちの慰み者になっているんですよ。
もう、元の御堂さんには戻ることがない。
ねえ、元はといえばそれはすべて、貴方が御堂さんに立ち向かうために、
自分の力ではなく、眼鏡に頼りすぎたから」
そう言って、頬をつうと撫でる。
克哉の頬がぴくりと震える。
Mr.Rは克哉の耳元に、唇を近づけて囁いた。
「私が、罰を与えてあげましょう。
甘美で、淫猥で、嗜虐の歓びに満ちた罰を」
克哉の喉が、ごくりと鳴った。





Mr.Rが鞭を振るうたびに、克哉から甘い悲鳴が漏れる。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめん、なさい・・・」
何度も何度も繰り返す謝罪すら、甘く歓びに熟れている。
堅く縛められた男根からは、汁が滴っている。
Mr.Rが顔を近づけると、自分から顔を寄せてキスを強請った。
「ん・・・っ。うう・・・」
深く深く絡みあう。
「本当に、淫乱ですね・・・。
被虐の歓びに、すっかり目覚められて。
貴方の欲望は果てしなく深い。
本当は眼鏡をかけた貴方よりも、今の貴方のほうが、ずっと欲深くて猥らだ。
そう・・・私が創り上げたのですから」
熱に浮かされた表情で、Mr.Rの手のひらが身体をまさぐるのに意識を集中させている克哉には、言葉の意味までは届いていない。
そう分かっていて、それでもMr.Rは語り続ける。
「ペルソナの内に逃げるほどに、辛かったですか。
でもね。
こんなことで、私から逃げられると、本当に思ったのですか?」
克哉の双丘に指を差し込みながら、克哉の耳元へと囁きかける。
「あああっ・・・。そこ・・・気持ちいい・・・」
探り当てたポイントを指でぐりぐりと突くと、ひくひくと穴が蠢いた。
堅いモノを根元まで納めると、克哉の目から涙がこぼれた。
甘い、甘い涙。
「ごめん・・・なさ・・・」



「もっと・・・滅茶苦茶に酷く・・・して・・・」











「さあ、待ちに待った時間ですよ」
嗜虐の果てに訪れる、解放の時間。
Mr.Rは克哉の身体をどさりと御堂の部屋へと落とした。
「さ・・・えき・・・?」
今日もまた、御堂の、空ろな瞳に光が灯る。
克哉は床に倒れた御堂を一瞬見た。
しかし、眼を細めてみただけで、すぐにMr.Rのほうを、振り返る。





「Mr.R・・・それより、も・・・もっと・・・罰を・・・」






足にすがりつくペルソナの白濁に塗れた顔を見て、Mr.Rは笑った。






BADEND










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